第二章
「お松さん…どうなされました?」
三時過ぎ、赤門から正門に向ってレンガ沿いに歩いていた謙孝の前
に、女中のお松がいきなり街路樹の銀杏の影から顔を出した。
「お姫(ひい)さまがお話が御ありだそうです」
「はぁ!?…美子さま?がですか、…宜しいのですか!?こんな所
でお姫様が男を待ち伏せして…」
「分かっております…。ですから此処でまっておりました。お車の
中にいらっしゃいますから、お話を聞いてお上げになってください」
「私…執事の山下さんの許可を得て、谷中の実家に帰るところです
から…、出来ましたら又の日に…(
うるせ~ねぁ…あんな子供に付
き合っている暇なんかね~んだよ!…。借金がかさんで金の工面に
行かなきゃどうにもなんねぇ~んだ!)」
「それも解っております…。ですからお車の中で、私と運転手は外で
待っていますから…」
謙孝は母親そっくりのペチャンコ顔をした美子を思い出し、少々
憂鬱になった…が、(あんまり約束の時間にぴったりと行くのも相手
を図に乗せて良くないし…、少しは待たせていらいらさせる位が程
よいか…)と思い直し、時間つぶしにガキの話し相手もイイと決め、
お松に承知の返事をした。
「お松さん、寺の父親が風邪を引いて寝込んだそうだから、私は
出来るだけ早く帰りたいので…」
「ハイハイ…、承知しております、…お話が終わりましたら、声を
掛けて下さいね」
「加賀美、お父様が風邪をお引きになったって…嘘でしょう?」
後部座席から助手席に座った謙孝に、美子はいきなり声をかけた。
それは今まで聞いた事のない美子の強い
女の声だった。
「わたくし何でも知っていてよ…」
「はぁ~?…、何でも知っているって…、何をどう知っているのか
知りませんが、私は何を知られても一向に構いませんよ!…。けど
…おひいさまが知って得するような事は何一つありません!…」
前を見詰めたまま、謙孝は微動だにせず、勝ち誇ったように言う
美子の言葉を跳ね返した。
「ま~無礼な!…」
「無礼な事はありません!…ご存知ないかも知れませんが、私は
自分から書生にしてくれ…と頼んで書生をしている訳では有りませ
ん。お殿様から是非に…と、谷中の父にお話があったので、京都へ
修行に行くのをやめてお屋敷に行っているだけです。…お姫様たち
がどうお思いになっても御勝手ですが、私は貴方達の使用人ではあ
りません!…、学費もいっさい頂いておりませんし…」
目を合わせずにいる事が、美子のプライドを益々傷つけたであろう
事を計算の上で、謙孝は言い放った。
「ま~嫌なお人ね…、あなたには道徳心ってものがまるでお有りに
ならないのね」
「道徳心ならありますよ…。
むしろ私を相手にしている人たちに
道徳心と言うものがないから、私にも道徳心がないように見えるん
じゃないですか!?…。道端で男を待ち伏せしているような女に
そんな事を言われたくありませんね!…」
端正な横顔に涼しげな目で、身も凍るような言葉が飛び出し、美子
は恥じらいと無念さに真っ赤になった、…が謙孝の透き通るような
首筋と清潔なうなじを見て、胸が締め付けられる痛みに項垂れた。
「美子さま、ご用が終わりましたら私はこれで失礼致します。今後
もし私に用が御ありでしたら、直接おっしゃって下さい…、何時で
もお待ちしております」
20mほど先でお松と運転手の中田がこっちを見ている。やっつける
だけやっつけて置いて、謙孝はサッとドアを開けると優しい目つき
で美子を眺め、にっこりと微笑んだ。
別に計算しているわけではないが、いつも最後に優しい態度で相手
に接した。知らず知らずの内にそうして生きる術を身に付ていた。
(
花の見頃は一時だ…、大いに悩め!…)
弥生町を右に曲がり池之端まで来ると、又右へ曲がり行き付けの
旅館(出会い茶屋)までゆっくりと足を進めた。
「謙さん…。今度逢う時は衣替えだね。すべて私が用意するから
決して他の女から貰うなんて事はしないでおくれ!…、苦労して
学問に励んでいる謙さんの面倒をみれるのが私の唯一の楽しみなん
だから…。これだけ男前だから他に女を作るな…なんて言えないけ
ど、お金と衣装の用意だけは私にさしておくれ…」
呉服屋の女将からきつく言われて、今日が約束の日であった。早く
済ませて、たんまりと御足を戴いたのでちょっと気が楽になった。
「くれぐれも旦那に気付かれないように用心して、体に気を付けて
…また7月に…」乱れ髪に垂れた乳房を出したままの女将に、謙孝
は優しく言った。旅館に入った時とは見違えるような白絣を着て、
真新しい夏の袴に着替え、下帯までも替えた謙孝は池之端を右に
曲がり、切り通しを横切った。
湯島下の陰間茶屋で天知光仁がくびを長くして待っている筈である。
途中でミルクホールに寄り、温かいコーヒーを飲んで一息つき、
約束より一時間ほど遅れて茶屋の木戸を開けた。
呉服屋の女将とさほど年の違わぬ遣り手婆が、冷たい目つきで出迎
えた。「お殿様が二時間も前からお待ちですよ!…、あんたも罪作り
な人だね~…」この世の汚濁を知り尽くしたこの女も、底知れぬ魅力
を湛(たた)えた謙孝には適わぬらしい。茶屋の売り子の誰よりも
美しく、理性に富んだ瞳は謎だらけで、
その上道鏡も驚くほどの逸物
の持ち主だと言う。
「いつもお世話になっております」…と馬鹿丁寧に挨拶をされると、
遣り手婆も振り上げた拳のやり場に困るほど「はい、いらっしゃい…
いつもの離れですよ…」っと笑顔にさせられてしまう。
離れと云ったって、飛び石を五つも踏めば格子の引き戸に入れる。
謙孝は上がり框(かまち)の障子を開け、忍び足で次の間の唐紙を
荒々しく曳いた。
「うっ~…うぅ~」
薄明かりの座敷から呻き声がした。すっ裸の男の影が浮ぶ。
「あぁ…加賀美~…遅かったじゃないか…、また私を焦らそうとして
わざと遅れて…うんぅ…」
「お楽しみのようですから私は帰りましょうか…。お殿様…」
「また~ぅ…そのような意地悪を言って…、私はこの日をどれほど待
ちわびていたか…。今日こそ私の願いを叶えておくれ…」
「では私は酒でも飲みながら、殿様のお遊びを拝見する事に…」
「あぁ~良かった。お前が怒って帰ったら…と気が動転しました」
「
大丈夫ですよ、私は意地悪を言っても意地悪な事はしません。仏に
誓っていますから…」
「お前は私たちの秘め事を覗き見していましたね!…、それも一度
や二度ではない!…許しません!」
何所で用意したのか、荒縄で亀蔵がぐるぐる巻きに転がされている。
ヒステリックな声を上げて、光仁が衣紋掛けで亀蔵を叩いている。
手拭いで猿轡をされている亀蔵は「う、う…」と呻くのみ。
そうやって謙孝が来るまで愉しんでいたらしい。
「え~い!…下男の分際で主人の寝間を覗き見するなど不届き千万
!…くやしい~!!」
見ると亀蔵に掛かった縄はずるずるに解け、亀蔵がその気になれば
いつでも立ち上がれるほど弛んでいる。(ふ~ん、出歯亀めも愉しむ
…か、中々面白~かも…)光仁の酒を呑みながら謙孝は微笑んだ。
女のような甲高い声で叱責し、衣紋掛けを振り回すもんだから、急所
に当たった時などは“ぎゃぁぁ~!”…っと亀蔵も本気で叫んだ。
それが「うるさい!」と言いつつ、光仁が亀蔵の口にモンキーバナナ
程のサオをねじ込む…。それを咥えながら、亀蔵はちらっ…と謙孝の
方を見やり、何かを訴えるように身悶えている。
(こんな猿芝居に俺が容易く乗るかよ!…。
今に見ていろよ!…、
二人共…男女郎に落してやるからな!…決して芝居じゃ味わえない
責め苦を味合わせてやるぜ!…)
「あぁぁ…また女の匂いをさせて…、口惜しい…、亀蔵…加賀美の
衣服を.片付けなさい!…」
遊び疲れた二人が縄を解き、袴を脱いでくつろいでいる謙孝の方に
すり寄ってきた。
「おめぇ~達の猿芝居は面白くねぇ!…。足抜けした女郎の責めは
あんなもんじゃねーよ!…。お殿様…あんたも女郎になりてぇーの
かよ!…」
「あぁぁぁ…そんな…女郎だなんて…。私が女郎に…あぁ~身の毛
がよだつようなはしたない事を…」
「
亀蔵!…お殿様は嫌だって!?…、おめぇ~はどうだ!?…」
「
…お、おらぁ…おめーさまの言う事なら何でもしますだ!…」
「
お殿様…亀蔵はなんでもするそうですぜ…」
「あわぁぁ~…怒らないでおくれ…、お女郎だなんて…わたしは
お女郎なんて知りませんし、なんで私が折檻されなきゃならない
んでしょうか?」
「バッキャロー!…大根役者みてぇーな小ざかしい芝居を打ちやが
って、俺を舞台に乗せたきゃ~、頭を畳に摺り付けて頼み込め!…
それでも解んなきゃ…おいらはけぇ~るぜ!…」
「ここまで来て帰るだなんて…、私が悪かった…、お前の許しも
得ないで亀蔵を折檻して…。…
どうぞ私も亀蔵同様折檻しておくれ」
「おう!…始めっから素直にいやぁ~いいものを…」
「
あぁぁ~恥かしすぎて…女郎に成りたいなんて言えない…」
「うん、ま~そうだな…。でもお殿様…裸になりゃ~上も下もね~、
女も男もね~!…。…今夜はたっぷりと俺も愉しませて貰うぜ!」
「
あぁぁ~私の永年の夢が叶うのですね…」
「亀蔵!俺の摩羅をしゃぶれ!…お殿様は亀蔵のケツの穴を舐めろ」
「
えっ!…私が亀蔵の…お尻の…毛むじゃらの穴を!?…」
「嫌なら何にもしなくてお殿様らしく、そっくり返って眺めて居ても
誰も文句を言う者なんかいねぇ~んだから…。だけど…これから俺が
亀蔵と愉しんでも何も文句を言うなよ!…、おい!亀!舐めろ!」
「あぁぁ~それは私のモノ…」
「ふざけんな!…これは俺のモノじゃ!…。女に入れようが、亀蔵に
舐めさせようが、俺の勝手じゃ!…。これから先、一切お殿様に俺の
体は触らせね~から覚悟しておけ!」
(
何か…下手な役者の台詞(せりふ)みてぇ~だな?)
謙孝は自分で言っているセリフに自分で噴出しそうになった。
が、光仁には効果覿面であった。
「お前に捨てられたら私は生きては行けない!…。お前の言う事なら
なんでもします」
立ち上がった謙孝を見上げて、光仁は泣き出しそうに懇願した。
「よ~しっ!決まった!…まずは亀蔵!…縄を持って来い!…、こい
つを
真人間に仕込んでやる!…。亀!…俺がこいつを縛っている間
じゅう…ずーっとこいつの乳首を責めたてろ!…」
「へぃ!…お殿様の一番の急所ですね」
「そ~だ!…身動きできね~ようにがっちりと縛り上げて、こいつが
音を上げるまで…、こいつの望むように二人で遊んじゃお~…」
「お、おいら…日頃の恨みを晴らしてぇ~!!」
「そうだ!その意気だ!…、亀!…俺の摩羅ほしいだろ!?。後で
たっぷりと可愛がってやるぞ!」
何所でどうやって覚えたのか、謙孝の縄さばきは素早く、亀蔵に
乳を嬲られて悲鳴を上げている間に、光仁の体は見事な亀甲に縛り
上げられた。その上、光仁の頭をおさえ、膝ま付かせると、
「
お殿様…どうだ!…、これは囚人が刑場へ引かれて行く時、町中
の人に見せしめの為に縛った縛り方なんだぞ!…、晒し者にされる
気分はどうだ!?…」
と、言い放った。
「
ひぃ~!!…わらわは晒し者なのかぁ~!!」
「そーよ!てめぇ~みてぇ~なド助平~は、みんなに見られて笑い
ものにされるんだ!…さ~…俺の摩羅を喉の奥までくわえろ!」
「あっわっ!…うぐぅ…」
うむを言わせぬ攻撃に、光仁の口は謙孝の太い摩羅でふさがれ、
「亀!…こいつのケツの穴を舐め廻し、たっぷりと唾を湿らせろ!
…おい!…亀が穴を舐めるから…腰を上げて足を開け!」
「うぅごぉ…」頭を抑えられた口には太摩羅が入り、乳責めで悶え
ている光仁は何ら抵抗する事なくケツを上げ、亀蔵に穴を開いた。
「亀…しっかり唾を付けたら入れてやれ!…」
「うほっ!…入れてもいいっすか!?…」
「
おっぅ!女郎に仕立て上げんだから誰のでも受けさせるぜ!」
「
お殿様が女郎になるんっすか!?…あぁ…身震いがするぜ!」
謙孝は光仁に言い聞かせるように言い放った。光仁は尻を振って
もがくが、縄が食い込み、息が出来ない状態では無駄であった。
謙孝以外に受けた事のない尻穴は、やがて下郎に犯され、たっぷり
精液を体内に注入される為に開きはじめた。
第二章 終