道鏡の末裔(第一章) 作 北州 吉之介
謙孝(かねたか)が子爵天知家の書生として雇われたのは十五の
時であった。
本来なら下僕として雇われ、風呂焚きや庭掃除など、使い走りと
して、女中の下で働く使用人として雇われても何ら不思議のない
境遇であった。
にも係わらず、書生として雇われたのは、彼の持って生まれた類
いまれな美貌の所為であった。
十五年前、法龍寺の本堂に置き去りにされた乳飲児は、物好きな
和尚によってそのまま育てられた。
檀家の許しを得て、乳飲児は和尚の養子として入籍された。
元より一人身の和尚は“
天からの授かりもの”として、分身ででも
あるかのように慈しみ育んだ。
経文を枕に、袈裟を掛け布団とし、般若経を子守唄にして育った
謙孝は、門前の小僧ならぬ門中の小僧として経文を唱え、小学校
へ上がる前から和尚の後に就いて檀家を廻り、明晰な頭脳と態度
で旦那衆の気に入られ、十二の時にはその美貌が評判を呼んで、
根岸や谷中の女共の歓心を引き、彼岸や盆は和尚よりも彼を待つ
ようすが有りありと表れ、和尚や旦那衆を戸惑わせた。
謙孝が15歳で中学を終える正月、京都の大本山へ修行に行く事
になり、青山にある天知家へ年賀の挨拶と、一年分の供養代を頂
きに出向いた。後ろから付いて歩く謙孝はすでに和尚より背丈も
体躯も大きく、墨衣の外からもその偉丈夫さは際立っていた。
子爵のお殿様らしく口髭をたくわえた天知光仁(みつひと)は、
書院造りの広間で平蜘蛛のように平伏した二つの坊主頭を見下ろ
した。
「
ほー…これが例の捨て子か…」
謙孝の耳に光仁の第一声が聞こえた。微動だにしない和尚を横に、
「
はい、私が捨て子、加賀美謙孝です」
頭を畳に付けたまま謙孝は力強く答えた。
その夜
「謙孝、子爵様がお前を書生に…と言っております。寺の後継ぎ
にと私は考えていましたが、無心の修行に行くか、書生として学
究の道に進むかはお前が決めなさい。不慮の出会いでなった親子
とは言え、どちらの道が良いかは判断の出来かねるところです。
幸いな事にお前は明晰な頭脳と頑丈な体躯を授かりました。どち
らの世界に行っても、他の誰よりも抜きん出た人間に成ると私は
信じています。…中学の校長によると、数学と化学における理解
力は特に素晴らしく、何とかして大学まで進ませて欲しいと言っ
て来ています。貧乏寺ゆえ大学までの学費を檀家にねだる訳にも
行かぬ、仏のお導きによって出来た親子の縁…」
「和尚様、ご心配には及びません。私は決心致しました、子爵家
の書生となって、世のため人の為に働きたいと思います」
本尊釈迦如来坐像の前で対峙した親子の運命は瞬時にして決した。
昭和二年、謙孝18歳。
天知家の門内の桜は満開であった。花の重みで垂れ下がった枝を
掻き分けるように黒塗りの車が門から出て行った。
しばらく頭を下げたままかしこまっていた謙孝は、素早く門を閉
めると玄関脇の自室に戻り、大きな体の手足を大きく伸ばし、大
欠伸をして横になった。寝不足で頭が痛い…。
「謙孝さん…。御前様がお風呂に入ると申しております。いつも
のようにお支度をお願い致します」
女中の竹子さんが引き戸の外から声をかけて来た。
「ハイ、承知いたしました」
生欠伸のまま言葉だけは丁寧に応えた。
「湯加減はもういいから下がって良い!」
湯殿の中から光仁が釜焚きの下男に向って苛立ちの声を上げた。
窓を少し開け、下男が立ち去るのを確認すると
「加賀美…何をしておる…」
「ハイ、ただいま…」
先程から脱衣所で衣服を脱いだまま、謙孝は風呂場の光仁の様子
を窺がっていた…(もうそろそろ痺れをきらしてこっちに来るだ
ろう…)。謙孝の思惑どおり、光仁は真っ赤な顔をして脱衣所と
湯殿の仕切戸を恐る恐る開けた。
「何をしておる?…、どうかしたか?…」
真っ白な下帯び(褌)一丁でうずくまっている謙孝に向って光仁
は猫なで声で聞いた。
「…寝不足で少々頭が痛くて…」
「あぁぁ~、そんなに激しかったのか…」
「ハイ、一晩中私のモノをもて遊びまして…、一睡も寝かせて
もらえませんでしたので…」
「おおぉ…可哀想に…さぁ!…こっちに来てゆっくりと温まり
なさい…」
光仁はシミ一つない艶やかな謙孝の背中に触れ、ゆっくりと立ち
あがらせる。
と、謙孝は途中からすっくっ…と自分から起き、光仁の前に仁王
立ちになった。それが合図ででも有るかの如く、光仁は謙孝の前
に膝まづき、真っ白な下帯に頬を寄せた。
「ああぁ…、この巨大なモノが徳子の汚らわしいボボの中を貫い
たのですね!…」
浅黒く引き締まった謙孝の尻に両手を廻しながら、光仁は悔しさ
と羨ましさの狭間で涙を流し謙孝の褌を濡らした。
「おい!褌が汚れるじゃねーかよ!」
謙孝の一喝に光仁は涙に濡れた顔を上げ、己を見下している謙孝
の、阿修羅のような美しい若者の顔に見惚れた。
「はい!…(
あぁ…私はこの下卑た男に下品な言葉で叱責されて
いる…。…なのに、この震えるような歓びは一体何なのか…)」
光仁はいつまでも頬ずりしていたい未練と、この後にくる狂おし
い程の歓喜に対する期待に崩れ落ち、謙孝の足に口付けをした。
「バッキヤロー!…いつまでも女みてぇ~にぐっちゃぐっちゃし
てね~で、さっさと湯加減でも見てこい!…。俺は疲れてんだ!」
肩を蹴り上げられた光仁は飛び起き、湯殿に入ると、湯船に手を
入れかき混ぜた。
熱いぐらいが丁度いい、と言う謙孝の湯加減は、ぬるま湯好きの
光仁の手がまっ赤になる程の熱さであった。
つかつかっと湯船に寄ると、謙孝は光仁を跨ぎ、そのまま“どっ
ぼ~ん“っと大きな湯船に褌のまま飛び込んだ。熱湯は跳ね返り、
光仁は頭から湯をかぶりずぶ濡れにされた。
沸かしたての湯はチリチリと謙孝の肌を刺し、その刺激が何とも
云えぬ気持ち良さに酔いしれた。
謙孝は本当に疲れていた。昨夜の所為ばかりではない。帝国大学
への入学に納める金の工面で走り回り、昨日の昼は谷中の後家の
所を訪ね、一時の寝間を過ごす羽目になった。だが決して金の要
求をした事はない。袖を千切り、袴を破いては相手に繕わせ、貧
乏を強調しては、後家の涙を誘い金品を出させた。
(
頼まれてもこいつ等(子爵家)からは金は貰わぬ!…。こいつ
らが何と思おうと、俺はこいつ等の使用人じゃねぇ!)っと謙孝
は湯船に浸かりながら、「ふうぅ~」と溜め息をつき、湯船に思い
っきり手足をのばし、腰を浮かせた。
白い褌が水面に現れ、巨大な逸物がくっきりと透けてみえた。
ちらっと光仁に目をやると、潤んだ目で頬を赤くして見ている。
「お殿様…欲しいか?…」
「はい…あなたのモノをお口いっぱいに含み…、そして…その後
…お、おいど…の…穴に…入れられ…、あ~はずかしぃ~…入れ
て戴きたく…」
「お殿様…そんなに恥かしがる事はありません…。奥方さまも同じ
ことをおっしゃいましたから…」
「あぁぁ~…口惜しい事だ…。
元はと言えばわたしが頼み込んだ事
なれど…、徳子もこの巨大な逸物のとりこになって、わたし以上に
身を焦がしておるのか…」
「…それでも欲しいか…」
「ぁあ~、ください!…徳子の移り香を消して、早く私の中へ…」
謙孝はゆっくりと湯船から立ち上がると、桶を枕に大の字に横たわ
る。光仁は謙孝の足元に寄り添うように座ると、手にシャボンを付
け、足の爪先から洗い始めた。
駿馬のような艶やかに伸びきった若者の脚は上にいくほど引き締ま
り、野生のオスの腰は筋肉が浮き出て、そのまま性器に集結して茂
みから飛び出した巨砲は、太い青筋が渦巻き二つの卵をしたがえて
股間に君臨している。
「口で洗えよ!…」
「あぁ…でも~徳子の匂いが…」
「がたがた言うんじゃねぇーよ!…、嫌ならいいんだぜ!…、俺は
何も好き好んで奥方の相手をしているわけじゃねーんだし…」
「いやだなんて…そんな~、怒らないでおくれ、お前の言う事なら
なんでもしますから…」
謙孝の脅(おど)しに益々燃え上がり、光仁の尻穴はひくひくと
蠢(うごめ)き、知らず知らずのうちに腰をふって、謙孝の顔色を
伺っている。
「いちいち手間かけねーでしっかりとしゃぶれよ!…、後で痛いっ
思いをするのはオメェーだからな!…、自分のケツの穴にもたっぷ
りと唾を塗りたくって滑りをよくしておけ!…」
巨大な肉棒にしゃぶりついてもよい!…、と言うお許しが出たのだ。
光仁の舌が内股からたっぷりある玉袋に至り、青筋の浮き出た巨根
の根元から這い上がり、かり首を舐めまわし、鈴口に出た先走りか
ら青臭いオスの臭いを嗅いだ。そのネットリとした透明な液はほろ
苦く、切ない味で、光仁を狂わせるには充分な量であった。
「あぁぁ~…」
光仁は余りに圧倒的な男臭さに虚声を上げ、これか
ら犯される自分の惨めさに酔いしれた。
張りのあるカリ首から徐々にくわえ込んで上下に頭を振って、光仁
の口の中は呼吸が出来ないほどにいっぱいになり、それでもまだ半
分にも達していなかった。
「おえぇ!…」
「おらぁ~!!…、しっかり元までくわえ込め!…。奥方はもっと
奥までしゃぶるぜぇ…」
「ぶはぁ…ぐえぇ~!!」
光仁の顔は鼻水・涙・唾・涎があふれ、謙孝のサオをたっぷりと潤
した。謙孝はゆっくりと上半身を起し、己の股間に夢中になってい
る光仁を見下ろした。
(
こやつも可哀想なもんだ、生まれも育ちも申し分ない上に、体も
がっちりとしていて、傍(はた)から観たら何も言う事は無いのに、
逸物が並より小さくその上男好き…っと来ちゃ~、神だか仏だか知
らね~が罪作りな事をするぜぇ~!!)
っと、わずかばかり仏ごころを起しながら眺めた。
「よ~し!準備は良いようだな…、ゆっくりと俺に跨り腰を落とし
て来い!」
体格は同じようだが、骨の太さが違うのか、謙孝の方がガッチリと
肩幅が広く、筋肉の塊のような腕が光仁を包み込み、上体を支える
ように抱えた。消え入りそうな恥ずかしさで顔を真っ赤にして光仁
は謙孝の腕につかまり、徐々に菊花を開き、腰を沈めて行った。
「あぁぁ~…わたしの体が開いて行くぅ~!!…、こんなに大きい
ものをわたしは受け入れようとしているぅ~!!…。
あ~ぁ~あっ
あっ~!!…入ってくるぅ~!!」
「おうっ…少しは慣れてきたようだな!?…お殿様!…、初めの
頃は死ぬような声を出していたが、あれは何だったんだ!?…、何
とか言えよ!」
「あぁ~…たのむぅ~…それは言わないでおくれ…。はずかしくて、
思い出しても恥かしくて…、
あぁぁ~…頭の芯まで突付かれている
ような…、入ってくるぅ~!!…あ~男が入って来る~!!」
背を反らせ、顎を突き出し、白目を宙に浮かせて光仁の尻穴はとう
とう謙孝の巨砲を根元までくわえ込んだ…。
光仁が腰を使い出した。「おい!勝手に愉しむんじゃねえ!…」と
言う謙孝の言葉が聞こえないのか、肉欲だけのメスと化した光仁は
「あひぃ~!!…いいぃ~!!太いぃ~!!」
とわめき、前かがみになっては謙孝に抱き付き、のけ反っては腰を
使って上下に暴れまくっている。
頃合を見計らい、謙孝の手が光仁の乳首をつかみ撫で上げた。
「ひぃぃ~!!ダメ・ダメ~!!そこはだめ~!!」
光仁は最大の性感帯を責められ歓喜の悲鳴をあげた。
(後はおれが腰を使えば勝手にイクだろう…)っと思い…、
ふと、何故か人の気配を感じ、湯船の上の小窓に目をやった。
いつ頃から覗いていたのか坊主頭の亀蔵と目が合った。びっくりし
たのか亀蔵の頭がひっこんだ。
(どうせ又のぞき込むだろう…)と思い、ぐいぃ!っと腰を突き上
げた。「うぎゃぁ~!…ダメェ~!!」目いっぱい伸び切った尻穴
の筋肉を擦られ、光仁は直腸の耐えがたい刺激に意識が薄れてきて、
全身の緊張がゆるみ、小水をもらし始めた。
案の定小窓に坊主頭が見え、ぎょろ目の亀蔵が顔を見せた。
謙孝は結合した所を亀蔵に見せ付けようと、徐々に腰を廻して小窓
の方に光仁の尻穴を向けて、自分の巨根も“どうだ!”と、言わぬ
ばかりに激しく腰を上下させて亀蔵に見学させた。
「うわぁぁぁ~!!…だめ~!…死んじゃうぅぅ~!!」
亀蔵が覗いているとは知らぬ光仁は屋敷中に聞こえるかと思うほど
の声を上げ、自分の髪の毛をつかんで身悶えた。
(
亀蔵!良く観ろ!…人間と言う生き物を…、お殿様でもお姫様で
も、裸になりゃ~みな同じじゃ!…)
しがみついて来た光仁を横抱きにして“ごろっ”っと寝返り、謙孝
は上になると、光仁の足を大きく開かせて、カリ首から元まで出し
入れを始めた。亀蔵の目に総てが曝け出されると、
「ああぁぁ!!…ゆっくり…ゆっくり…やっておくれぇ~!!」
女と同じ泣き声が謙孝を苛立たせる。
(そろそろ年貢の納め時だな…)狂い泣きする光仁の声が擦れだし
たので、窓の亀蔵をみると、目を真っ赤にして涙ぐんでいる。
(???…)亀蔵のなみだの意味が解らぬまま、仕上げに入った。
思いっきり光仁の腰を浮かせるように、謙孝は自分の腕を板の間に
つくと、腕立て伏せのように全身を光仁の体に乗せ、深く浅く、浅
く深く…と繰り返した。それはまるで沼地に杭でも打ち込むように、
光仁の穴に苦痛と快楽の波を引き起こした。
「あぐぅ~!…いいぃ~!…ダメぇ~!…いくぅぅ~!!」
全身をふるわせた光仁の可愛い性器から白濁が飛び出し、己の顔面
に飛び散ると、気が失せたように静かになった。
謙孝はゆっくりと光仁の穴から凶器を引き抜くと、亀蔵の方に向っ
て湯気の立ち昇る摩羅をこれ見よがしにしごいて観せた。
“がたっ”っと倒れる音がして、台でも踏み外したのか、亀蔵が消
えた。口を開け、腹を波打たせて光仁は気絶している。
第一章 終